脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つの病気からなり、いずれも意識障害、麻痺や痺れ等が突然起こり、重篤な後遺症を残すことのある病気です。特に脳梗塞は、発症から早期であればあるほど血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)や、カテーテルで血栓を取り除く治療(血栓回収療法)により症状の改善が見込まれます。救急搬送後できるだけ迅速かつ正確に治療適応の有無を評価して、1分でも早くこれらの再開通療法を開始します。急性期脳梗塞の治療は、時間との戦いです。
種々の病気で入院中の患者さんが、病院内で脳梗塞を発症する場合もあります。病院の中で発症したのですから、お家で発症した場合より治療までの時間は短くて済むはずですが、このような院内発症脳梗塞の患者さんは、入院の原因となった病気の状態や使用中の治療薬など、救急車で来院する脳梗塞以上に再開通療法の適応決定には高度の知識と経験を要します。このような院内発症脳卒中は当病院内で年間30-40件程度起きています。(表1)
病態が複雑かつ緊急性の高い院内発症脳卒中に迅速に対応できるように、当院では2018年5月より「院内発症脳卒中対応チーム(in-hospital stroke action team: iSAT)」を脳の専門家である脳神経内科、脳神経外科、脳卒中リハビリ認定看護師、脳神経病棟看護師で編成し、成果を上げています。
職員が院内発症脳卒中を疑った場合、顔(face)、腕(Arm)、言葉(Speech)のいずれかに異常がないか評価し、5点満点で点数化します(Maria Prehospital Stroke Scale、図1)。顔(face)、腕(Arm)、言葉(Speech)のいずれかに異常があれば脳卒中発症と考えます。治療方法を決めるにあたり、最終未発症時間が非常に重要になります。発見した医療者は、症状を発見した時刻(発見時刻)、症状がなく問題がないことが確認できる時刻(最終未発症時刻)を確認し、直ちにiSATへ連絡します。こうした体制を整備する事により、発症4.5時に限られる血栓溶解療法の施行率向上に役立ちます。
これまでの活動結果を表1、図2-3に示します。発症時の入院診療科は多岐にわたります。血栓溶解療法や血栓回収療法を行わない場合は、患者さんの病態に合った脳梗塞治療を開始します。
iSATは、院内発症脳卒中の対応の他にも、脳卒中の早期治療に関する院内啓発活動を行なっています。脳卒中を専門としていない病棟でも脳卒中発症を疑う患者に対して即応できる様、常時訓練を行う必要があり、脳卒中の初期対応に関する講習会を各病棟で行い成果を上げています。
脳神経内科助教 伊佐早健司
表1.院内発症脳卒中対策チーム(in hospital action team:iSAT) 対応症例
症例数 | n=3 |
---|---|
平均年齢 | 74.3±10.3 |
iSATcall | 12例(33.3%) |
最終診断脳卒中 | 27例(75%) |
NIHSS | 14.0±10.9 |
治療内容 | |
tPA | 1例(2.7%) |
血栓回収療法 | 4例(11.1%) |
期間 | 2018年5月1日-2019年3月31日 |
図1.Maria prehospital Storke Scal:MPSS
図2.脳梗塞発症時の入院診療科
図3.発症時入院診療科