パーキンソン病患者さんの睡眠中の運動障害
(脳神経内科准教授 白石 眞)
高齢者の三大神経疾患といわれる「パーキンソン病」は主に40代、50代以降に多く発症、ゆっくりと進行する原因不明の神経変性疾患です。パーキンソン病は手のふるえや、体の硬直、歩行が遅くなるなどの典型的な症状があれば、たいていの場合診断は容易です。しかしながら専門家でも診断が難しい典型的でない症例もあり、注意深く、時間をかけて診察することが重要です。特に運動障害以外の抑うつや便秘、起立性低血圧が加わる症例が多く、これらをもれなくチェックすることが重要ですが、わずか10分程度の外来診療では困難です。そこで私たちは、2~3日程度の検査入院で、症状が完全に悪くなってしまう前段階で、パーキンソン病の広範な障害を十分評価し、治療に結び付ける方法をとっています。主な検査の概要は表に示す通りです。
特にこの検査入院中には、外来診察では評価することのできない夜間の運動障害を、当科で開発した長時間運動解析法を用いて評価することができます。
この検査は、100g程度の小さな加速度計(図1)を腰部に装着して、一晩寝るだけの簡単なものですが、この方法で図2のような寝返り動作の3軸方向の加速度変化を長時間記録することができます。下段は正常の方の睡眠中の動作ですが、かなり動いているのがわかりますね。上段はパーキンソン病患者さんの夜間の寝返り動作の軌跡ですが、驚くほど寝返り動作が少ないことが一目瞭然です。
私たちはこの動作軌跡をさらに詳細に解析して、治療に役立てており、パーキンソン病では健常者と比べて寝返り回数が明らかに少ないこと、これらは日中の運動障害評価と乖離している方が多くみられること、パーキンソン病の薬物療法前後で寝返り回数が改善することを確認しています(http://www.esciencecentral.org/journals/overnight-monitoring-of-turnover-movements-in-parkinsons-diseaseusing-a-wearable-threeaxis-accelerometer-2329-6895-1000267.pdf)。
これらの検査を通じて、私たちは通常診療で把握してきた日中動作の臨床評価に加えて、今まで問診や診察でしか把握できなかった夜間の寝返り動作から、日常生活動作を客観的に把握できるように応用し、患者さんの生活の質の向上につなげていくことができると考えています。
表 パーキンソン病の短期入院スケジュール(例)
検査項目 |
内容 |
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診察・問診 |
試験期間中のあなたの全般的な健康状態や、服用している薬の確認、血圧・心拍・体温などの測定をさせていただきます。 |
パーキンソン病の臨床スケール |
パーキンソン病の病状(運動症状・非運動症状)や日常生活の様子について質問させていただきます。また、あなた自身に回答いただく項目もあります。(所要時間15分) |
認知機能検査 |
認知機能や記憶力を測定し、この試験の参加に問題となるような認知障害を合併していないかを確認します。(所要時間15分) |
精神機能検査(抑うつスコア) |
抑うつがないか問診を用いて行い、抑うつが睡眠や日常生活活動に及ぼす影響を調べます。(所要時間5分) |
睡眠・覚醒スコア検査 |
日中の眠気と夜間の睡眠を問診により評価します。(所要時間5分) |
運動機能検査(歩行スピード) |
歩行スピードを調べます。(所要時間3分) |
レボドパ血中濃度(体の動きを調節するレボドパの動態を調べる) |
血液を1回あたり約6mL採取し、レボドパ血中濃度を測定し、治療薬物の動態を調べます。 |