脳塞栓症における心房細動を容易に発見する ―非侵襲的 前胸部貼付型 テレメトリー式心電送信機 Duranta®―
虚血性脳卒中の抗血栓療法は臨床病型により異なるため,本邦での脳卒中ガイドラインにおいても心原性脳塞栓症では抗凝固療法が,非心原性脳梗塞では抗血小板療法が推奨されています.よってその病型診断には慎重を期し,殊に脳塞栓症では塞栓源が心原性または非心原(血管原)性のどちらかの鑑別が困難なことも多く,通常の短時間心電図検査だけでは自覚症状が少ない潜在性心房細動の存在が証明できないことも多く,血管原性脳塞栓症と診断されたり,原因が同定できないため虚血性脳卒中の約25%程度を占める潜因性脳梗塞と診断されたりすることも少なくありません.この潜因性脳梗塞例を少しでも減らすために,近年,欧米を中心に開発された貼付式やベルト巻付式の体外装着型や,皮下植え込み型などの長時間にわたり記録可能な心電計を用いて,塞栓源の多数を占めるとされる潜在性心房細動の検出が試みられており,脳梗塞後の心電図モニタリングが長い程,潜在性心房細動の検出率が高くなることがCRYSTAL-AF試験,EMBRACE試験などで報告されています.
一方,本邦では医療用に開発され実用化に至った長時間遠隔監視型心電計は未だに少なく,本報告で使用した前胸部貼付型テレメトリー式心電送信機Duranta®(イメージワン社)を含め数機種にとどまっているのが現状です.しかし,皮下植込み型心電計は侵襲的であり,すべての潜因性脳梗塞患者には適応不可能と考えられますので,通常診療で行われているホルター心電図による潜在性心房細動検出力を凌駕する非侵襲的検査法が求められています.
我々は2015年12月より,発症24時間以内に当院へ入院し,入院時の12誘導心電図や,入院後少なくとも24時間以上の心電図モニタリングで,心房細動の検出が認められなかった塞栓源不明の脳梗塞急性期例に,患者見守りのために本邦で医療用に開発された非侵襲的である貼付型テレメトリー式心電送信機Duranta®(医療機器認証番号:226AIBZX00055000)を退院まで,または最長4週間装着し,潜在性心房細動の検出を試みています.
Duranta®は,iPhoneを介して心電波形データをクラウドサーバーに電送するテレメトリー式心電送信機で,元々は在宅医療,高齢者施設での患者見守り用に開発されました.本体は重量が35g,大きさが78.4mm(横)×35.1mm(縦)×14.7mm(厚)の双極単誘導心電計で,連続稼働時間は内蔵リチウム電池で連続7日間,最大10日間の心電波形データ送信が可能です.このDuranta®本体をAmbu社®のBlueSensor P電極パット(医療機器届出番号:13B2X00117000001)と共に患者前胸部にNASA誘導で貼付して,本体の電源を入れれば心電波形データの記録が開始されます.得られた心電波形データはBluetoothで近傍のiPhoneへ無線送信され,さらに3G/4G/LTE/Wi-Fiにてインターネット回線を介してクラウドサーバーに電送されます.クラウドサーバーへのアクセスは個人ID/パスワード認証で制限され,iPhone/iPad/Windows PC等で心電波形の参照がリアルタイムで可能となっています.
(秋山久尚)
(文献 秋山久尚,貫井咲希,荒賀崇,星野俊,田中啓太,鹿島悟,佐々木梨衣,内野賢治,長谷川泰弘.潜因性脳梗塞患者の塞栓源検索における前胸部貼付型テレメトリー式心電送信機duranta®の有用性.日本遠隔医療学会雑誌 12(2):138-141,2016.)
Akiyama H, Nukui S, Araga T, Hoshino M, Tanaka K, Kashima S, Sasaki R, Uchino K, Hasegawa Y.
Utility of Duranta, a wireless patch-type electrocardiographic monitoring system developed in Japan, in detecting covert atrial fibrillation in patients with cryptogenic stroke; A case report.
Medicine (Baltimore). 2017. In press.