急性期対応から終末期医療まで様々な場面で貢献できる神経内科医師の育成を目指して
医局長 清水高弘
脳神経内科疾患は脳卒中や脳炎、てんかん発作、Guillain-Barré症候群などの救急疾患からパーキンソン病や多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)、脊髄小脳変性症(SCD)などの慢性期神経難病、そして頭痛やめまいなどのcommon diseaseなど多岐にわたります。
当科の診療は、各ドクターの専門性を最大限に活かしながら学術的な向上を図るべく、脳血管障害、変性疾患、神経免疫疾患、筋・末梢神経疾患の各グループに分かれ、日々の診療にあたっています。大学院生・内科専攻医・研修医は、各グループで集中的にその分野を学び、各グループをローテーションしながら全範囲を系統立てて修得していきます。
そのうえで、全体回診を週に一度、全体カンファレンスを毎朝行なっており、各グループが一堂に会して議論することで、お互いを高めあっています。医学生も一緒にこのカンファレンスに参加し、忌憚なく発言してもらっています。
脳血管障害グループには、脳卒中専門医、血管内治療専門医を中心に、良質な脳卒中診療と後進の教育を提供しています。私自身は超音波検査を専門としているため、若手医師達に超音波検査の技術と臨床応用について指導を行っています。
変性疾患グループは、2020年度にパーキンソン病治療センターを新設させ、デバイス治療も積極的に行っています。パーキンソン病に対する外科的治療法として脳深部刺激療法(DBS)を脳神経外科医師とチーム医療で実施しており、さらに進行期パーキンソン病に対して空腸に持続的にドーバ製剤を投与するデュオドーパ治療を消化器内科医師と協力のもと実施しています。コメディカルも含めたチーム医療が展開されているのも、このグループの特徴です。
神経免疫疾患グループは、脳炎、脳症、多発性硬化症・視神経脊髄炎、Guillain-Barré症候群などの疾患に対して、腎臓内科と連携し、血液浄化療法を含めた免疫治療を積極的に行い、神経免疫疾患の集約的な診療が行われています。
筋・末梢神経疾患グループは、神経生検・筋生検を数多く行っており、電気生理検査のみならず、病理学的な検討も積極的に行われる体制となっています。定期的に若手を対象とした電気生理学勉強会も開催されています。
また、当科出身であるリハビリテーション科山徳雅人医師には、リハビリテーション科 佐々木信幸教授にもご指導いただきながら、脳卒中・神経難病のリハビリテーションへの介入だけではなく、神経変性疾患に対する経頭蓋磁気刺激療法や、ボツリヌス療法を積極的に行っています。
このように、多種多様な神経疾患を経験することで、知識と技術の幅を広げ、急性期対応から最後の看取りまで、将来的には地域医療に貢献できる神経内科医師の育成を目指しています。
そして内向きには、医局員同士の絆を極めて大切にした医局です。手前味噌ではありますが、多くの学生、研修医より、「医局の雰囲気がとても良い科」として評価してもらっています。近年では、聖マリアンナ医科大学脳神経内科同門会「橘樹会(きつじゅかい)」を発足させ、同門の先生方・医局員・その御家族が、「皆、幸せ。」に過ごしていくことを医局の大志としています。見学はいつでも可能です。おもてなし好きの医局員が、お待ちしておりますので、是非一度遊びに来てください。そして、このHPを見て興味をもってくれた先生と、生活を一緒にできる日を楽しみにしております。
「仕事と育児 ワークライフバランスと医局」
桒田千尋(2009年卒)
入局を考えた際に10年後のライフプランを予測することは、なかなか難しいことだと思います。
大学病院で脳神経内科医として働きたいと思い入局し、出産、子育て、不妊治療、ワンオペ育児などを経験しながら、10年以上が経ちました。自身の周囲の環境は一変しましたが、今でも入局当初の想いのまま変わらず大学病院で働くことができています。日々慌ただしくも充実し、働きつづけていられるのは間違いなく、医局の環境にあると思っています。現在、働き方改革などもすすんでいますが、育児と仕事の両立には時間に限りがあり、サポートを必要とすることが多くあります。当科には、その時々のライフスタイルを理解しサポートしあえる環境があり、私も幾度となくフォローいただいてきました。医師として、長期的に心身ともに健康に働くということはとても大切なことだと思っています。ワークライフバランスについて、医局について、気になることがありましたらいつでもお声かけください。
「J-OSLERと内科専門医取得~充実した研修環境~」
飯島直樹(2016年卒)
私は新内科専門医制度が始まるタイミングで脳神経内科へ入局した専攻医1期生で、新内科専門医を取得しました。
脳神経内科は全身に及ぶ幅広い分野を扱う診療科です。他科に比べると肉眼で病巣を観察する機会は少ないですが、詳細な病歴聴取と神経診察でおおよその責任病巣を推察し診断に迫ることができる点は、他科にはない脳神経内科の醍醐味ではないかと思います。当科は川崎北部の脳神経疾患の診療を担う中枢にて症例数は圧倒的に多く、経験症例に不自由することがありません。特に内科専攻医の最初の関門であるJ-OSLERでも、ほとんどの症例を当科内で揃えることが可能です。不足する症例については優先的に他科のローテートを組むこともできますので、非常にスムーズにJ-OSLERを終えることができました。
忙しい毎日ですが、熱心で明るい医局の雰囲気の中充実した日々を送っています。そして神経疾患の診断に至った患者さんの、その後の人生にも及ばずながら関わっていけることに強いやりがいを感じながら日々診療に励んでおります。
是非一度お気軽に見学にいらしてください。
「大学院での研究~臨床と研究の日々~」
松本博文(2017年卒)
私は、脳神経内科入局と同時に大学院に入学しました。大学院講義で研究の作法について学びながら、日常臨床をベースにして指導医の先生のもと入念にテーマを決定していきます。さらに研究を行うにあたって、臨床研究計画書や同意書の作成を行い、その後データの収集に入ります。私の場合は、入局1年目で大学院の必修講義を全て修了し、研究テーマの決定に試行錯誤を繰り返した末、2年目後半に研究テーマを決定してデータ収集を開始しました。
「パーキンソン病患者の歩行動作の定量化」を学位論文のテーマとし、さらに3年目には日常臨床にフィードバックできるよう、懸命にデータ解析を行いました。一連の作業を行うにあたって、当科には脳神経内科の各分野に精通した上級医に常に相談しやすく、最適なサポート体制があると考えています。高い志を持った皆さんとともに一緒に研究を行える日を楽しみにしています。
「入局後の日々~一人の医師として~」
高梨世子(2019年卒)
私は脳神経内科に入局後、神経免疫・感染症チームと脳卒中チームに所属し、病棟では10人前後の患者さんを受け持ち、担当医として診療を行っています。主体的に診療を行う分責任も大きいですが、チームの上級医の先生がしっかりとバックアップして下さり、カンファレンスもアットホームな雰囲気で相談しやすいので安心して診療を行うことができています。また、緊急業務(救急車や院内急変の対応)や嚥下造影検査などの当番が受け持ち患者の業務のほかにあり、病棟業務とは少し違う臨床も経験しています。さらに腰椎穿刺やCVカテーテル・バスキャスの挿入、カテーテル検査・治療などの手技を行う機会も多く、積極的に診療を行うことで数多く経験することができます。
当科の疾患は様々な診療科に関連することが多く、まだ他科のローテートをしていませんが、これまでにもすでに色々な症例を経験できています。急性期から慢性期まで幅広い分野をバランスよく学ぶことができ、気さくに教えて下さる先生方がいるのも当科の魅力だと感じています。少しでも興味があれば、ぜひ見学にいらして下さい。皆さんと一緒に仕事ができるのを楽しみにしています。
脳卒中チーム 深野 崇之
脳卒中チーム 深野 崇之
脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳出血、脳動脈解離、脳静脈洞血栓症、RCVS、内頚動脈狭窄症など
チームの特色)
脳卒中チームは、その名の通り「脳卒中」をメインに担当いたします。ただし、くも膜下出血については当院脳外科が加療します。
脳卒中は救急疾患です。速やかな診断と治療の開始が求められます。脳神経内科全般では診察を丁寧に行い、しっかりと考察をしたうえで、診断、治療に向かいます。しかし、脳卒中の場合には時間が限られています。特に脳梗塞の超急性期においては、不可逆的損傷を受けた虚血層中心部の周囲に、まだ救済の可能性をもったいわゆる虚血性ペナンブラが存在します。このペナンブラは時間経過とともに死んでしまうのですが、その前にいかにして救うかがテーマとなっています。ただし、診察をないがしろにしていいわけでもありません。いかにして短時間で重要な情報を得て、さらに検査に向かい、最短の時間で治療に移るかということを念頭に日々実践しております。
近年、t-PA静注療法、脳血管内治療の発展はすさまじいものです。当科でも当院脳神経外科と連携して、t-PA静注療法、脳血管カテーテル検査、脳血栓回収療法などを行っております。
また、脳卒中は「再発予防」が非常に重要であります。そのためには、「なぜこの人が脳卒中になってしまったか」を丹念に追及する必要があります。当科では頸動脈エコー、経食道心エコー、経口腔頸動脈エコーなど多彩な超音波を当科主導で行っております。さらに植込み型心電モニタ(ICM)の植込みも行い、心房細動の検出に努めています。
再発予防に関しても、奇異性脳塞栓症などは当院循環器内科とも連携して、PFO閉鎖術の適応があるかどうか定期的に協議をしております。
脳卒中は緊急が多いですが、メリハリのある部門です。脳卒中の治療に興味がある、また予防に興味がある、原因検索に興味がある、など脳卒中の中でも特化したところに面白さを感じる方も大歓迎です。ぜひ一度見学にいらしてください。お待ちしております。
変性疾患チーム 水上平祐
変性疾患チーム 水上平祐
パーキンソン病、レビー小体型認知症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症
チームの特色)
変性疾患とは脳や脊髄で特定の神経細胞群が障害を受け脱落してしまう病気を指し、代表的な疾患はパーキンソン病です。変性疾患となる原因は現在の医学でも完全にはわかっていませんが,高齢者に発病しやすいため加齢そのものがリスクであると考えられています。そのため、今後高齢社会が進むにつれ、さらにパーキンソン病患者が増加すると推測されています。変性疾患を根本から治す治療法は存在しておらず、映画やドラマのように簡単にはいきません。バック・トゥー・ザ・フューチャ―に出演していたマイケル・J・フォックスは、同作品出演後にパーキンソン病に罹患し、銀幕の世界からは引退となってしまいましたが、パーキンソン病は『不治の難病』と当時報道されており、幼かった自分にとっては『不治の難病』という響きに非常に怖い思いをしたことを記憶しています。あれから約30年の年月が経ち、実際に医師として診療する立場となってみると、様々な新薬が開発されたり、iPS細胞を使った移植療法や外科的治療が行われるようになったりとパーキンソン病は『不治の難病』から緩和できる疾患になったと実感しています。
脳神経内科の特徴の一つが『治療のみならず患者の支援にも長けている』ことだと思っています。多くの変性疾患の患者は治療のみならず支援を必要としているため、変性疾患チームは看護師、理学療法師、薬剤師、栄養師、ソーシャルワーカーなどの職種と緊密に連携しています。そのため変性疾患チームは、治療のみならず多職種連携や支援についても学ぶ機会も多いと思います。
是非、見学・研修にお越しいただければと思います。
また当院のパーキンソン病治療センターのホームページもご覧ください(PDセンターへのリンクはこちらからどうぞ)。
神経免疫・感染症チーム 櫻井 謙三
神経免疫・感染症チーム 櫻井 謙三
多発性硬化症、視神経脊髄炎、重症筋無力症、自己免疫性脳炎、ヘルペス脳炎、髄膜炎、HAM
チームの特色)
神経免疫・感染症チームは、他のチームと比べ「幅広い」層を担当します。「幅広い」というのは、若年者から高齢者、軽症から重症、急性疾患から慢性疾患、common diseaseから希少疾患までといった意味です。そういう点では、多くの経験を積める場所だと思います。
当チームの対象となる疾患の特徴は、治療が可能であることです。医学の発展とともに多くの疾患で治療が確立している中、神経疾患は未だ治療法が確立していない疾患も数多く存在します。そんな中、神経免疫疾患および神経感染症は的確な治療を介入が、そのまま患者に反映されるため、やりがいのある分野ではないかと考えています。
神経免疫疾患の入院患者の半数は、重症筋無力症や視神経脊髄炎といった慢性疾患の急性増悪です。そのため、ガンマグロブリン大量静注療法や血漿浄化療法などの急性期治療を行い、慢性期治療の組み立てを考えていきます。「なぜ」急性増悪したのか、「なぜ」これまで行ってきた治療が功を奏さなかったのか、この「なぜ」を追求することが退院された後の患者QoLに大きな影響を与えるため重要視しています。また、ときには生命にかかわる状態まで増悪する症例を受け持ち、脳神経内科の枠を超えた内科医としての人工呼吸管理を含めた全身管理を経験することもあります。生命維持を主目的とする救急医とは異なり、基礎疾患となる神経疾患を有しているため、その疾患の進行状況や本人の受け入れ状況、家族の希望など、長らく担当している主治医を中心に倫理的なアプローチを行う過程も経験する機会もあります。一方、common diseaseである髄膜炎などの感染症は、単相性の経過をたどる疾患であり、腰椎穿刺を含めた診断から治療まで携わることができます。
神経免疫・感染症チームは忙しいと思います。その分、やりがいのある分野でもあります。是非、見学・研修にお越しいただければと思います。
神経筋疾患・生理検査チーム 伊佐早健司
神経筋疾患・生理検査チームム 伊佐早健司
末梢神経障害:慢性炎症性多発神経根炎
ギランバレー症候群
ANCA関連血管炎
筋疾患:筋ジストロフィー
運動ニューロン疾患:筋萎縮性側索硬化症
機能性疾患:てんかん
その他原因が分からない疾患
チームの特色)
神経筋疾患・生理検査チームは脳神経内科で最も重要な「診断」を担当します。
脳神経内科の疾患には未だに多くの原因がわかっていないものが多くあります。脳神経内科の先人達はこれまでに多くの難病と向き合い、診断・治療法を明らかにしてきました。この最も基本となるのは「問診と神経診察」になります。神経伝導検査や針筋電図、脳波検査などの生理検査は臨床推論からでた障害部位の同定や病態の評価に必須です。私たちのチームでは「問診と神経診察」を重視して診療をおこなっています。
末梢神経障害や筋疾患、機能性疾患を通じて脳神経内科として必要な「問診」「神経診察」「臨床推論」を学ぶことをチームの教育目標としています。
長く難病と言われていた疾患への革新的に治療方法が出てきています。トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーへのRNA干渉治療薬や好酸球多発血管炎性肉芽腫症などへの生物学的製剤、脊髄進行性筋萎縮症への核酸医薬など多くの治療が出てきています。診断のみに満足することなく最先端の治療方法を詮索し行っていくことも重要です。
当チームの他の特徴としては血管炎性末梢神経障害が多いことが挙げられます。皮膚症状や膠原病に関連した全身臓器障害を扱うこともあり、皮膚科、膠原病内科と連携して診療を行なっています。神経・筋疾患の診断には組織診断が必要となることが多くあります。当院では神経生検・筋生検を各10-15件/年程度行い、国立精神神経センターや名古屋大学とも連携し診断を進めていきます。
これらの診断技術を用いても確定診断に至らない患者さんもいらっしゃいます。この方々は「手の施しようがない患者さん」なのでしょうか?そんなことはありません。様々な身体障害を抱えていても仕事や生活の支障を最小限に抑えられるような様々な社会制度、医療・介護サービスが提供できる体制を構築することも脳神経内科医として重要です。ALSや筋疾患では症状が重症となった場合は、コミュニケーション障害、呼吸障害や嚥下障害など倫理的課題を取り組まなければならないことも出てきます。
当院では脳神経外科、精神科、小児科、脳神経内科からなる「てんかんセンター」を神奈川県内唯一のセンターとして機能しており、当チームでも協力しています。てんかん症候の問診から脳波モニタリング、てんかん手術の適応などについて、脳神経外科医と協議をしながら進めていきます。
興味がありましたら見学、研修にお越しください。